今回は前回の続きです。今までの連載でお伝えしてきたことが,再登場する場面が多くなりますので,随時,過去の記事を参照してください。
さて,"業務改善で手に負えないこと"の多くは,業務改善着手前の計画段階において,経営課題・組織課題が明確になることで発生する場合がほとんどです。
ただしこれは,本連載の第8回,第9回,第10回の3回に渡ってお話したように,問題の深堀りを徹底的に行い,真の原因を見出していることが前提です。原因の深堀りに手を抜いてできあがった改善計画で業務改善を実行した場合は,改善に着手してから経営課題や組織課題に遭遇し,これがボトルネックとなって業務改善を進めることが困難になり,頓挫することもあります。
前工程と超上流工程に入り込む
業務改善は第4回において,「スモールスタートがいい!」と述べました。これは「やればできるんだ!」という成功体験を積む意味もありますが,モデルケース(モデル部門)として他部門への水平展開をはかるときの良い成功事例になるからです。業務改善の対象部門も最初から絞り込むよりも,原因が明確になった段階で対象部門を広げればよいでしょう。
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この対象部門の広げ方ですが,後工程の部門よりも前工程の部門に広がるほうが多くなります。第6回では,「上流工程を押さえる」と書いたように,なぜ,上流に入り込むのかを考えてみましょう。そして,最上流のトップマネジメントや超上流工程まで到達したら,既に業務改善の範疇を超えているかもしれないということが,今回のテーマです。
上流がきれいであることの意味
大河も最初は一滴の水から始まります。いわゆる水源です。上流で生まれた水質の良い水は川を下るにしたがって水量が増え,川幅も広くなり,最後は海に注ぎます。
例えば,上流で水質汚染や環境破壊があると,当然ですが,途中で浄化しない限り,下流には汚染された水が流れてきます。既に川幅が広い下流では水量も多く,汚染物質も拡散しているので,本来の水質に戻すには並大抵ではできません。
水質と水量を下記のように置き換えて,仕事・業務で考えてみましょう。
トップ10の強力なジョブ
- 水質 ⇒ 業務品質
- 水量 ⇒ 業務量
前工程で既に出来の悪いものが,後工程であるあなたの部門に入ってきたらどうなるか,結果は目に見えています。後工程で"業務品質"をリカバリーすることは並大抵ではありません。後工程が尻拭いをして手直しをする余計な仕事が増えるか,前工程に「ちゃんとやれ!」と差し戻すかのいずれかでしょう。後工程になればなるほど,様々な工程を経てきているのでトータルの"業務量"も多くなり,前工程への差し戻しの時間・工数も馬鹿になりません。
川をたとえに上流と下流の話をしましたが,水質が悪化し水量も多い下流で手直しをするくらいなら,上流で汚染をしている原因を取り除くほうがはるかに簡単だろうと考えることでしょう。
これが,川でなく組織の場合は,上流が前工程です。経営や組織領域に入った途端に,とても小さな水源でもなかなか入り込めなくなります。しかし,我々は経営コンサルティング会社なので,そこで「はい,そうですね!」と引き下がるわけにはいきません。最初は小さくスタートした業務改善から,全社的な経営改革に進んだ事例を1つ,ご紹介しましょう。
第一国立銀行リバーフォールズ
現場も頑張るから経営もガンバレ!
A社は中部・東海,関西方面を中心に広く日本全国に展開している金融関係の会社です。最初は,事務業務の効率化を目的としてシェアードサービス部門を新たに立ち上げて,その部門に事務業務を集中化させることにしました。
事務業務といっても幅広く,営業の後工程の営業支援・管理のような仕事から,経理・財務,法務,システムやインフラの保全まで含まれていました。このA社で起こっていたことは,前回の表で示した「企業・組織が抱える問題」とほとんど変わらないものです。
具体的には事務業務の集中化を目指して,業務分析で明らかになった問題をつぶすために,各現場では社員一丸となって業務改善を行うことにありました。そこで,下記のような経営や組織に関する問題が山ほど出てきました。
- 会社の方針が変わりやすい
- ビジョンがわかりにくく社内浸透もしておらず,お客様へ説明できない
- 経営会議の報告用に,営業会議の資料が使えないのか?
- 経営計画通りに予算が達成されたことがない,経営計画がおかしいのでは?
- 同業他社に比べて離職率が高い
- 人事制度とキャリアデザインが不整合
- 仕事の内容が変わらない無意味な組織変更が多い
- ブランドイメージが良くない 等
このA社が恵まれていたのは,業務改善の中心メンバーに取締役が入っていたことです。現場では業務改善をしっかり取り組む中で,経営や組織に関する課題を放置することを,この取締役はしませんでした。業務改善メンバーが進捗を経営トップに報告する場を活用し,「この経営と組織に関する問題を経営層も一丸となって取り組んでもらいたい」と勇気をもって発言したことも功を奏しました。
当時,我々も含めて改善のメンバーは「現場も頑張っているんだから,経営も頑張れ!」がスローガンでもありました。経営層は,現場から出てきた経営・組織課題を握りつぶすのではなく,それまで指示待ちで無関心が目立っていた社員が「経営も頑張れ!」と言ったことを,まずは認め評価しました。ここで「一社員の君が関与すべきことではない」と経営層が言っていたら,A社はその後もずっと経営と現場ではしこりが残ったままになったことでしょう。
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